今回のテーマも少し重めで、「手作り」についてです。

昔、まだ機械生産を一部の大手企業しか導入していなかった頃は、
「手作り」という言葉がでると、「足では作れない」といって馬鹿にされていました。
それ位、手で作ることが当たり前だったということです。
ところが現在では、家族だけで営んでいるような個人商店でさえ、
包餡機(生地と餡を別々に入れると饅頭となって出てきます)などの製造機械を使っています。
何故でしょうか。メリット・デメリットをそれぞれ考えたいと思います。

まず、メリットから…。
何と言ってもまず、誰でも簡単にできるという事です。
勿論、お菓子に関する最低限の基礎知識は必要でしょうが、
ポイントさえ押さえておけば、あとは、機械の整備・調整だけです。
この点は、例えば、技術を持った人材が不足している時などに有効です。
お菓子をわかった人間が一人いれば、あとはパートのおばちゃんたちで大丈夫、ということです。
これは場合によっては、人件費の節約にもなるかもしれませんし、製菓技術習得の省略ができます。

次のメリットは、生産効率です。
一旦機械を調整すると、別のお菓子用に調整しなおすのが大変なので、
一種類を大量に作って冷凍保存し、必要に応じて解凍するという段取りになります。
一日に何種類も作らないので、結果的に効率が上がるという訳です。

品質を一定にできるという利点もあると思います。
「疲れた」とも言わず、セッティングした通りに延々と同じ物を作り続けるのは、
機械の最大の特徴と言えるかもしれません。

あと、特殊なものを作ることができます。
例えば「みたらし団子」で、タレを表面につけるのではなく、団子生地の中に包み込んで、
「一見タレなし、食べると中からタレが…」というものです。
液状のものを包み込むのは、さすがに手ではできません。
タレを凍らせてサイの目に切って、とすれば可能でしょうが、大量には無理でしょう。

それでは、デメリットや手作りの利点について、あげてみたいと思います。
まず、機械というものは、どのようにでも作れるという訳ではないのです。
手作りそのままの材料では、不都合・不具合があったりして、配合・レシピも変えなければいけません。
結局、機械メーカーと原料メーカーが共同研究・開発した材料・配合で作ることになります。
つまり、「自店のお菓子を機械で作る」のではなく、「機械に合わせたお菓子を自店で売る」ことになります。
これでは、その店独自の味というものが出せなくなり、
どこの店に行っても同じ物しか置いていない、ということになります。
「同じ系列のコンビニしかない」状態と同じですね。
せいぜい名前や包装紙など目先を変えるだけです。

次に生産効率に関しては、機械生産でなくても、まあ一応は、冷凍・解凍という段取り自体は可能ですし、
生産スピードも、物によっては?です。
以前、製菓機械の見本市に行った時に、「若鮎」というお菓子を焼く機械があって、
担当者は「1時間に180個焼ける」と自慢していましたが、
当時の私は270個焼いていたので「300万円の機械に勝った!」と思ったものです。
勿論、何年も前の話なので、機械も進歩しているとは思いますが…。

品質の維持、これは当たり前の話で、
素人と玄人の差、つまり「仕事」となっているかどうかは、
同じ物を作れるかどうかの差で、一個一個、味や色・形が違うのでは話になりません。
手では品質を保てないからといって機械に求めるのは、言語道断です。
それどころか逆に、機械は融通が利きません。
いつも同じ材料を使っていても、微妙に質が違うことがあります。
元は農作物ですから、年によってコシの強さが僅かに違うとか、ほんの少し乾燥しているとか…。
両手で材料に触って作っていると、その微妙な違いも、まさに手にとるようにわかります。
また意識しなくても、勝手に手が調節しています。
機械だと入力された通りに動くだけなので、材料の質が変われば、当然出来上がりも変わってしまいます。

機械生産の最大のデメリット、それは、少し独善的かもしれませんが、何といっても、面白くないのです。
誰かが用意したレシピ・材料で、他店と同じお菓子を機械が勝手に作ることに、何も魅力を感じないのです。
私は、そんな事をするために菓子屋になったのではありません。

どんな「お菓子」が良いのか、どういう「お菓子屋さん」が良いのか…。
価値観というものは人それぞれです。
色々な中から選べる、ということが大事なことであって、
手作り・機械生産も含めて、色々あっていいと思います。
どこの店に行っても同じ、というのでは、豊かな社会とは言えないと思います。
ただ、当サイトで公開しているお菓子は、機械では絶対に創ることのできないものばかりです。
そんな想いも、このサイトを立ち上げた理由の一つです。

平成13年6月12日



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